2016/10/30 06:47


● 小さな版画工房・幸せの梟(ふくろう)について
 一人でやっている、本当に小さな工房です。自宅の納屋の一角、半畳程の空間に板を机代わりにして、その上で刷っています。版作りは他の所でもできますが、刷る作業はこの狭いスペースで立って行っています。はがきサイズまでの小さな作品ですので、この広さで充分です。むしろ、いろいろな物や道具、材料などが手の届く範囲にあったほうが作業が楽ですし、手間がかかりません。充分満足しています。
 この前の熊本地震の時も、ちょうどここで作品制作中でした。ここは震度4、かなりの揺れを体感しましたが、壁で体を支えましたので、大丈夫でした。震度4でもかなりのものでしたから、熊本の震度7というのは、どんなに凄まじかったことか。想像するだけで、ぞっとします。
 そもそも、平和で安全が確保されなければ、芸術活動などやってはいけません。今、私がこうして好きなことをしていられるのも、平和な世の中だからです。今のこの状況に、そして周囲の人達に感謝しながら、幸せを感じる日々なのであります。
 ただ、退職して定職についていないわけですから、(版画講師は生徒数が少なくて、しかも月に二回の講座です。ほとんどボランティア状態です。)一部支給の年金収入が頼りです。住宅ローンもまだ終わっていないし…。かなり生活は大変なので、極力出費を抑えて生活していかなければなりません。ですの散歩と月二度の版画講座以外は、なるべく家を出ません。(庭には出ます)その分、版画や書に打ち込めるわけです。
 梟(ふくろう)は、「不苦労」に通じます。だから、縁起物として、昔からいろいろなグッズが存在しています。実家には、こどもの頃、登山記念のふくろうの土笛をきっかけに、いつの間にかふくろうさん達がたくさん集まっています。自分でも、陶芸や木彫、印、絵、そして今回の版画、といろいろと作ってきました。
 そんなわけで、工房の名を幸せの梟としました。なぜ「小さな版画」なのかというと、それは、技法との関係が一番の理由です。

(英彦山のふくろうの土笛)

● 版画技法について
 現在、私が熱中してやっているのは、プレスによる版画です。実は、この方法は長い間したくてもできない方法でした。プレスするには、プレス機が必要なのですが、鉄製のしっかりした物は、大きくて重たくて、とても一般の家庭に設置できるようなものではありません。学校の美術教室や美術準備室の隅にあるものです。今にして思えば、教員時代に隣の教室で借りて使わせてもらえばよかったのですが、もうそういうわけにもいきません。
 小学校の低学年の時に、紙版画で大きな機械を使って刷ったことを覚えていまして、どうしても、もう一度やってみたくなりました。しかし、ネックはやはりプレス機です。バレんではうまく刷れないのです。プレス機は、中古でも高価です。しかも置く場所はありません。購入はあきらめました。そこで、似たようなものを自作しようと試みました。いろいろと試行錯誤を重ねましたが、満足のいく結果は得られませんでした。シンプルですが、円柱(軸棒)を二本、少しだけ隙間を作って紐で縛って、その間に版と紙を挟んで引っ張り出す、という方法をみつけましたが、何しろ力がいりますので、一枚刷っただけで疲れてしまいます。
 でも、それであきらめたわけではありません。今は、快適にプレスによる版画を作っています。そう、半畳程の板の上でです。
 さて、どういう手を使っているのでしょうか

 それは、パスタマシーンです。パスタマシーンというのは、パスタを作るときに、捏ねた小麦粉のかたまりを平べったく延ばす機械です。その名の通りのものです。ハンドルを回して二本の鉄製パイプの間を通すことによってプレスをする道具なのです。正にこれは、プレス機です。もちろん、パスタを作る時には、延ばしたものを麺の状態にしなければなりませんので、その後カッターの機械にかけて麺にするのです。だから、一口にパスタマシーンといっても、数千円~数万円の価格の差があります。しかし、パスタを作る訳ではありませんから、カッター部分の性能はどうでもいいことです。使わないので、付いていなくてもいいくらいですが、セットですから、もれなく付いています。だから、値段の安いものを購入しました。
 「すごいことを思いついたぞ!」とネットで調べてみたら、既にどこかの美術系大学で実験的にやっていました。だから、私が初めて発見した手法ではない、ということが分かって、ちょっと残念!しかし、使う材料が随分違うということで、自分の技法がかなりオリジナルなものだということが分かりました。

そんなわけで、パスタマシーンを使っての、厚紙ドライポイント、そして紙版画に熱中しているのです。

(これがパスタマシーン、活躍中!)

●次回から、作品の飾り方を考えましょう!