2016/10/27 11:21

 

● はじめまして、小さな版画工房・幸せの梟 ともんと申します。

 このブログは、「生活の中にアートを」「もっと身近に版画を」ということを目標に、芸術の世界をもっと普段の生活の中に取り入れたり、版画の楽しさや飾り方を提案するものです。そして、その結果として、版画を含めたアート作品が、人生に豊かさを、心のゆとりを、そして、何かの癒しとなることを願うものであります。

● プロフィール
 ともんは、本来は書家です。公立高校の芸術科書道教員として、38年間、書道、そして芸術教育に携わってまいりました。専門である書道を学ぶのは当然ですが、学生時代より趣味で版画を作ってきました。以来50年ほどが経ちます。少しずつですが、版画歴50年ほどです。(主に木版画、消しゴム版、ステンシル、シルクスクリーン、篆刻…等)
 退職後に思い立って「版画家」を目指し、一年間版画作りに没頭しました。そして、今年の4月に一年間の成果を発表する「版画小品展」を開催して、版画家として一歩を踏み出しました。独学で勝手気ままなので、とても版画家とは言えないのかもしれませんが、毎日の様に版画に携わり、何かを作っているという点で、版画家の片隅にでも置いていただけるのではないかと思っています。現在は機会を得て、住んでいる町の文化講座で、版画講師をしています。


(岡垣サンリーアイにて、「版画小品展」フクロウを中心に合計264点)

(会場風景・入り口に「フクロウの樹」この一点だけが大きなものです。)

(小さな版画作品ばかりですが、数多く並べることで広い壁面を使いました。)

● 絵の力
 この展示を通して感じたことがあります。それを、一言でいえば「絵の力」です。
 私は書が専門ですので、当然ですが、書展は、数多く開き、また出品してきました。(個展、二人展、グループ展、教員の書道展、学生の書道展、各種公募展、他の分野とのコラボ展、等)そして、絵と書の作品や篆刻作品を発表してきました。
 しかし、はじめての版画だけの展示にもかかわらず、今回ほど多くの人に見てもらえたことはありませんでした。それだけでもありがたいことですが、気楽に話かけてくれるのです。それも見ず知らずの人です。また作品を求めて頂いた数の多いこと。今までの書の作品では考えられないことです。きっと、絵は書よりも分かりやすいのだろうと思います。そして、絵を愛好している人が多いということです。

 昔から、「絵は買うもの。書はもらうもの。」という言葉があります。書は、「ちょっと書いてもらう。」という感覚があります。「すぐに書ける書と時間のかかる絵」とういう感じで、書と絵を見ておられる人が多いのです。実際は、一枚の書作品を作るのには、多くの時間と枚数を必要とする場合がほとんどです。
 また、絵は見て分かるけれど、書は何を書いているのか分からない、ということもあります。しかし、これも、抽象画のように理解しにくい絵もありますし、漢字かな交じりの書のように読めて意味内容の分かる書もあるのです。しかし、書はなかなか分かりにくいようです。このことは残念でなりません。日本の伝統文化なのに…。いずれゆっくりとお話ししたいと思います。
 話を元に戻します。書は、有名人なら別ですが、なかなか売れません。良し悪しの判断が一般の人には難しいのです。これは、小学校のからの教育に関係があります。絵は美術として子供の頃から学びますが、書はありません。書写、習字は、国語の書くという領域の中でほんの少しやるだけです。その目標は「正しく美しく」です。それも、書のことをよく知らない素人の教員が教えるので、本当のことは伝わっていません。できるはずもないのです。そして子供たちは習字が嫌になるのです。そして、習字と書道が同じものだと思ってしまう。そんな教育が問題なのです。
 とにかく、書は分かりにくい。だから、マスコミにつられて変な書がもてはやされます。「どうして、こんな気持ちの悪い書がいいの?」と思うのですが、そういう書が売れているのです。そして有名になれば、もっと売れるのですね。
 「書は人なり」という言葉もあります。人格が書に表れるということです。一般的には、書は作者との関わりの中で、この人の書が欲しい、と思わなければ、なかなか書を購入するというところまではいきません。それで、「書はもらうもの」というわけです。
 
 書と絵を比較しながらお話してきましたが、何よりも、絵画への関心や愛好者が多いということです。書展よりも絵画展の方が観覧者は圧倒的に多い。無名の小さな版画展でも、足を止めて見てくださるのです。そして、気にいった絵があれば、何か話をして、そして金額が折り合えば購入してくださるのです。今までの書展では感じなかった、ざっくばらんとした話や触れ合い、明るさ、開かれた感覚、等を感じました。これが絵の世界なのだと驚きました。一般の人が、絵画に関しては、かなり寛容で幅や懐の広さを持っているのではないのか、と思えます。
 それが、つまり「絵の力」だと思うのです。

(版画小品展ポスターに使用した作品より、右上から時計周りで
・おもしろ印:「金魚」
・木版リトグラフ:「妙高山」
・厚紙ドライポイント:「ミミズク」
・木版:「38の椿」)

●次回から、版画作品について、作品の飾り方など、普段思っていること、考えていることを書いていきます。
どうぞ、お楽しみに!